あなたに伝えたい

 

~聴こえに障がいのある人へ 

 

いつでもどこでも~

 

 

 

     要約筆記者・社会福祉士 菅原千佳

 

 

 

音のない世界を想像できるだろうか。

 

「テレビのなかの人々は口をパクパクさせ、泣いたり笑ったり。見ているこちらは、何が面白いのか悲しいのかさっぱりわからない。医者に行き、聴こえないことを告げると、マスクをした医師や看護師が何やら困り顔で互いに話し(そう感じる)『付添は来ないのか』とメモを出される。書いてくれれば理解できるのに・・・。

 

くわしく知りたいという思いに駆られることもあるが、待合室には多くの患者がいて、面倒だと思われるかも・・・とグッとこらえる。結局いつもの薬を受け取るだけで、診察の結果はわからない。

 

今のところは何とか生活できているが、災害が起きて避難しないとならないときどうなるのか、漠然とした不安が頭を離れない」

 

以前は聴こえていた人が病気などで聴力を失い、突然まわりとのコミュニケーションがとれなくなる。想像もできなかった不便や孤独感に戸惑い絶望してしまう人も多い。

 

 

 

私は、社会福祉士として福祉に関するさまざまな相談にのるかたわら、要約筆記者として、耳が聞こえない人にその場の音声情報を書いて伝える仕事もしている。障害者総合支援法の意思疎通支援事業に手話通訳者と同様、サービスの担い手として位置づけられており、決められた講習や試験を経た者が市町村に登録する。

 

手話と比べ要約筆記の存在は知られていないが、“字”はだれでも読めるという強みがある。

 

老化により聴こえに不便を感じる高齢難聴者がふえるに伴い、派遣要請も多くなっている。

 

講演会などで、スクリーンに講師の話が書き表されているのを見たことがないだろうか。オーバーヘッドプロジェクター(OHP)などの機械で映し出すことで、一度に多くの人が見れる。

 

一方、聴こえない人のそばで、ノートにペンで書き表す、ノートテイクという方法もある。

 

受診や、役所での手続き、職場研修、バス旅行にも同行する。聴こえない新郎新婦の結婚披露宴で、来賓のことばや、新婦が読み上げる親へのメッセージを書いたこともある。 

 

10数年前、保育園の卒園式で通訳したことは今でも忘れられない。聴こえない母親の依頼だった。卒園児が一人ひとり将来の夢を語る。

 

「大きくなったら消防士になりたい!」ノートに書かれた文字を見た母の目から涙があふれた。

 

「これまではまわりの話が聴こえず、ただそこにいるだけだった。園長先生がわが子に向けたことばも初めて聴いた」

 

 NHK朝の連続テレビ小説「半分、青い。」を見ている。ストーリーや登場人物はとても魅力的で、ときには遠い青春時代を思い出し、胸がキュンとする。ヒロインは片耳が聴こえない。そんな人たちの不便が描かれることで、社会に、聴覚障がいをもつ人々への理解が深まるかと期待したが、そこは見事に外れてしまった。彼女は家族や友だち、近所の人たちとスムーズにコミュニケーションを取っている。相手の話が一度でわかるのか「もう一回言って」というセリフを聞いたことがない。すれ違いや疎外感と無縁の内容に、聴覚障害への誤解が生まれるのではと思う。

 

一般的に聴こえの障がいがあることにより、音の出どころがわからない、音がしていることはわかるが、何と言ってるかがわからない、全体の一部しか聴こえない。

 

「たまご、買ってきて」が「たばこ、買ってきて」に聴こえたり。何度も聞き返すことを遠慮してわかったふりをしてすれ違い、無力感に苛まれる。1対1でのやり取りならまだしも、会社や学校などの集団では、わからずじまいでさびしい思いをしている人も多いのだ。また、

 

話せることで、聴こえていると思われたり、補聴器をつけていると100パーセント伝わっていると思われる。

 

本人が『聴こえない』ことを周囲に伝え、大事な情報は知らせてもらうようすることが大切だ。それにより、まわりで話し方を工夫したり、ジェスチャーやメモなどを使えば、確実に知らせることができる。

 

私が要約筆記を始めた頃、テレビへの字幕普及率は数パーセントだった。日本は外国に比べ普及が遅かったが、今はほとんどの番組に字幕が付く。それで改善される不便も多いだろう。

 

それでも、多くの聴こえにくい人は、じかにまわりの人と会話を楽しみたいのではないか。

 

口を大きく開けて正面からゆっくり話す口話、ジェスチャー、筆談。紙がなければ、スーパーの袋にも書ける。空中に指でも。

 

今の時代、携帯電話は誰でも持っている。メールを打って見せ合うなどもできる。要は「伝えたい」とう思いがあればその方法はいくらでもあるのだ。

 

聴こえにくい人がのぞむ方法で気軽にコミュニケーションが取れる世の中になってほしい。 「最近、聴こえにくくて・・・」と悩んでいる人がいたら「要約筆記があるよ」とすすめてください。誰にいつ通訳したかなど漏らしてはならない義務がありますので安心してくださいね。